釣行日 場所

2002年7月30日〜8月1日 九頭竜川

真夏の竿おろし


■不思議と今まで山や川でいろんな生き物と出会った時は、おもろいええ釣りやったことが多い。この「おもろいええ釣り」には、基本的に釣果は関係しない。ま、坊主でも構わない。無論、釣れないより釣れた方がよい・・・。

etimaoさんとの出会いも楽しいものであった。あっさりすっきりとした気持ちの良いフライマンだった。やっぱ釣り師も人柄である。きっとetimaoさんも釣りを通して、ものの見方や人柄・精神を培われたのだろう。三日間、穏やかな良い時間が九頭竜の小屋に流れた。

■まず小屋に着くなり、水の枯れた脇の小沢で、ガマガエルが出迎えてくれた。前足4本、後ろ足6本の「四六のガマ」かどうかは確認し忘れた。

初日の夕方、小屋の少し下で、会長が26センチのアマゴを掛けた。流れの芯が大岩にぶつかって割れた向こう側の流れからである。次にetimaoさんが白泡の中から28センチのアマゴを見事引きずり出した。波に揉まれたカディスを食いに出た。しかし、小生の攻めている流れからはウグイしか出なかった。流れが緩すぎるのである。真夏の渓流は果敢に流れの芯や白泡を攻めるものらしい。

■二日目の朝、新しい竿(3.9m)で6m「必釣」ラインの振込みを見てもらった。これがなかなか上手く振り込めない。最後がフニャフニャとなって、昨日振った4.5mラインとさして変わらない距離しか飛ばないのである。そのうち訳がわからなくなってきた。会長が「田中はん、少しクロスに打ってみ」とアドバイスをくれた。この一言が効いた。その後、なんとか格好がつくようになった。その頃、etimaoさんは荒島谷の出会いから入り、23−20センチのアマゴを3匹掛けていた。

初めて「アジメ落とし」なるものを見た。産卵に遡上するアジメドジョウが落差10センチほどの板の堰堤に遮られ、こりゃ登れんわいと写真左へ左へと移動して「受け」にスルスルストンと落ちる訳である。石を積んで、だんだん左に行くほど落差がなくなっている所がミソ。ウケの中を覗いて見ると、大きなカジカが1匹、すまして鎮座していた。

この日の夕方は後野キャンプ場から入ったが、フライもテンカラもとんと魚が出ない。そのうち、竿を出さずに後ろでずっと私の毛鉤を見ていた会長が、おもむろに「さあテンカラしょうか」と竿を伸ばし始めた。「先生、テンカラしょうか言うて今まで私、振ってましたで」と言うと、「あんなもんテンカラちゃう!」と一喝された。結局、会長が20センチほどの岩魚を2匹掛けただけで終わった。

こんな時は、車までの道が遠くて重い。三人でトボトボ歩いていると、道の真ん中で3匹のマムシと出くわした。2匹が交み合う傍に、何故かもう1匹いた。会長が鉈を取り出し適当な木を探していたら、溝の方で「カサカサカサ」と枯れ葉が鳴った。よく見るとひと回り大きな4匹目のマムシが尻尾を震わせていた。「食おう」と「イヤや勘弁や」と意見が分かれ、結局、会長は鉈を鞘に納めた。

■最終日の朝、etimaoさんと二人で入った。左斜面の大きな岩の割れ目から透明な清い水がほとばしっていた。その「ホト」と本流の合流点で尺アマゴが出た。細身で少し軟調子のこの竿は、全身でアマゴの走りを受け止め、ほどなく寄せてきた。

会長に二日がかりで指導して頂き、私の毛鉤にきっと何かが乗り移っていたに違いない。また前日、会長から「田中はんなりにここへ毛鉤打って・・・・・・ここで掛けてと予測の釣りをしよってのつもりやろけど違うんや。ココに打って・・・ココで掛けるんや」と矯正してもらっていた。だから、掛かるべくして掛かった魚である。出会うべくして出会った魚である。

また、それまでに20センチほどのアマゴを2匹掛けて、竿おろしの記念写真をetimaoさんに撮ってもらっていた。そこで一応満足して、小生の竿から「釣らんなん釣らんなん」という殺気が消えていたのかも知れない。

その後しばらく川は沈黙した。etimaoさんが「さっきヤマセミがゴイサギを追いかけとった」と言う。少し離れた所から見ていた小生は「やっぱそうやったんか」とヤマセミの魅惑的な羽根を思い浮かべた。

二人が釣りをしている間、会長には車を上に廻してもらって、ずっと待っていただいた。至極恐縮仕り候。今回も会長からたくさんの楽しい夏休みの宿題・課題を持って帰り、また「魚釣りは上手になればなるほど、たくさん釣れるからということではなく、いろんな意味で面白くなる」と思った。

京都に帰りしなニホンザルを見かけた。道路際で逃げもせずキョトンとした顔で目と目が合った。禁漁まであと2か月、ヒグラシの鳴く渓流で虻と戦いながら毛鉤を振ろうと心に決めていた。

写真:etimao さん

取材:京都北山テンカラ会  田中 佳憲

いつもの会長の釣り姿
etimaoさん夕まずめ快心の1匹
アジメ落とし
台風6号、橋げたに大木を突き刺す
師弟同行
「釣れんなあ」「あかんなあ」
二年振りの尺物でした
和・洋毛鉤師

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