釣行日 場所

2003年6月12日 吉野川

6月のアマゴ

田中太公画「アマゴ」
 
  岩魚ばかり相手にしていると、たまにはアマゴを釣りたくなる。

しかし6月のアマゴはなかなか手ごわい。なんせ3月の解禁以来、数多くの釣り師の鉤をかいくぐり、生きのびてきた居残り組である。体力も回復し、ひと回り大きくなって、流れの中を縦横無尽に泳ぎまわっている。相手にとって不足はない。

毛鉤を振っていて気持ちが良いのは山笑う5月の渓流。毎年、型も数も揃うのが、6月の鮎の解禁から7月の梅雨明けまでの渓流である。

6月12日、岡山県吉野川。佐用から大原へ抜けた辺りで、ごく普通のしもた屋に「天然うなぎ・すっぽん・なまず有ります」と少し気になる看板が掲っていた。しかし唐突に「サンカですか?」と飛び込んで聞くわけにもいかない。川漁師の人たちがすべてサンカではない。一度ブレーキを踏んだが、思い直して今日はそのまま通り過ぎることにした。

この日は午前中、やや減水・曇り空・微風と条件が揃っていた。しかし、出ない。まったく出ない。

毛鉤を大きくし、小さくし、白いのを結び、また黒いのと取り替え、逆さ毛鉤を流し、普通毛鉤を流す。あらゆるポイントにも毛鉤を入れた。落ち込みの肩は勿論のこと、足首ほどのチャラ瀬(ここで出る時は数がいく)、白泡の中、両岸の草の下、頭を出している大きな岩に沿って・・・。しかし、川は沈黙したままである。

毛鉤を流れなりに流しても出ないので、いろいろと誘いをかけてみる。いろいろと言っても私の引き出しは少ない。逆引きをして、派手に「ピシャ!」と出てくるのは、下品に色づいたカワムツか、すでに稚魚放流されたサヤエンドウばかりである。

道を失い、迷い、戸惑い、途方に暮れた。今日がテンカラ日和なだけに「何でや?」という思いがある。しばし石に腰掛け、一服する。石垣の土手にグミの実がたわわに生っていた。真っ赤に熟したグミの実が、まだ見ぬアマゴの朱点を連想させる。甘酸っぱいグミの実を口に含んでは、種を飛ばしながら「おらへんのかいな?」と一人ゴチる。

あずりこけばあずりこくほど、最初の1匹は嬉しいものである。

そいつは大場所の太い流れの下に潜んでいた。流れの芯の向こう側に毛鉤を打ち、手前に引いてきて↓、流れに乗せる→。するとユラリと黒い影が毛鉤を食いに上がってきた。「ガツン!」 塩焼きサイズ(大)のよく太ったアマゴであった。誘い出して掛けた魚は、ことのほか「掛けたった」という気分になる。エヘン。

それからは大場所にポイントを絞り、L字形に誘って流した。昼から雨がショボショボと降り始めたが、同じような型を2匹追加したにとどまった。しかし、毎年、型も数も揃うのが、6月の鮎の解禁から7月の梅雨明けまでと、私は頑なに信じている。

 

取材:京都北山テンカラ会  田中 佳憲

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